普通に見えて普通じゃなかった人たちについて。
友人の某は、どっから見ても普通の地味なおばさんである。
失礼ながら、茶の間で大正テレビ寄席などを見ているのが、かなりぴったり来るタイプであると思う。
でも、そんな彼女だが、かつては米国の田舎の大学で音楽療法とやらを学んできたのだ。(前にも書いたな…義兄がNASAのやつ)
時は80年代。彼女の、そのアメリカ田舎大での初授業の日。
教授がピアノを前にして、クラス全員に何か一曲ずつ好きな曲を弾いてみろとおっしゃったそうな。
どういうクラスなんだか知らんが、赤バイエル程度しか弾けない人から超絶技巧練習曲をこなすような人まで混在していたらしい。
で。
彼女が弾いてみせる番である。
ピアノが大得意な彼女は奮発した。
そして彼女が情感たっぷりに弾き込んだのは、よりによって、
タイム・トラベラーのテーマ曲であった。
しかし、これを聞いた教授は感激し、
「
なんと!これはドビュッシーの小品か!?」
トホホホホホ…
彼女は、なんか知らんがタイムトラベラーがどえらい好きで、テーマ曲をTVから録音(まだ家庭用ビデオなんか滅多になかった時代だ)したものをずっととっておいて、勝手にピアノでアレンジして弾いていたらしい。
なお、帰国後の彼女は、
アフリカ大陸中東の某国の大使館にしばらく勤めていたが、まことに安月給であったと記憶。
本当は、景気の良かったA国大使館で働きたかったようだが、たまたま彼女がビザかなんかの用事で行った際に、おっかないオバちゃん職員が若手職員を大声で怒鳴っているのを見てビビッてしまい、呑気な国にしたようだ。
そういえば、大使館近所に行った際に一緒に昼飯を食べた事があったが、「今日はお昼は2時間とっていいって言われたからさ~」と言っていたっけな…。
さらに。
前の職場で知り合ったんだが、私より5歳ほど上だったと思うけど、まあ、池波志乃を濃厚にしたような顔立ちで、普通のデパート店員をやってる人がいた。
しかし、この人、実は70年代には
Queenのブライアン・メイの私設ファンクラブを主催していたという。
当時、フレディ・マーキュリーをこよなく愛していた私としては、Queenがスター千一夜に出演した時の話や、初来日の裏話など、それはそれは濃厚な話などを聞くことが出来て感激であった。(でも、もう忘れちゃった…)
この人は、かつてロック系の漫画で鳴らしていた某女性同人作家についても良く知っていて、
「コンサート会場で初めて会ったけど、
麦わら帽子に小花プリントのワンピース着てて、みんなで
どこの田舎娘が来たかと思ったのよ」
トホホホ…
某同人作家に罪はない。
しかし、70年代とはいえ、ハードロック好きな女子は黒っぽい服やケバいルックスが基本であったと思う。そこに陸奥A子のオトメチックまんがの女の子みたいな格好してコンサートにやって来たんだから、さぞかし浮いたことであろう…。
(この某同人作家はその後、かなりのビッグネームとなり、現在でもベテランプロとしてご活躍中である。本の中ではわりとファッションにコダワリを持ってるような表現が見受けられることもあったんだけど…)
ちなみに、傍からはいい年をしたおばちゃんに見えても昔のロックにものすごい詳しい人、というのはわりといるんだなこれが。
もひとつ。
数年前のことだが。
近所の古いマンションの前を歩いていた時、自転車に乗った奥さんとすれ違った。
子供は乗ってなかったけど、自転車は古めで、さびの浮いた子供用の荷台が付いていた。奥さん自身は、上記のアメリカ田舎大卒の友人とどっこいどっこいの地味っぷりで、しかも、さらに生活やつれした感じだ。
その奥さんが、目の前でポトっと家の鍵を落とした。
すかさず私は、落ちましたよーみたいな感じで拾い上げ、そしてウッと硬直。
その鍵についていたキーホルダーは、
ニューヨーク・ニューヨークのものだったのだ。
ニューヨーク・ニューヨークってのは、その昔に歌舞伎町にあったディスコだ。
実際に海外の大物アーチストが来たり、それはそれはブイブイいわせていた(←古語)伝説の店である。その後にいっぱい出来たチェーン店化したクラブ類とは違い、純粋に
ディスコだった。
キーホルダーが入店証(会員証)になっていて、男が青だか黒だかで、女は赤地に自由の女神と店名が入ってるヤツだった。
(ちなみに、友達が熱心に通ってたんだが、あたしゃ入ったことはございませんでした)もちろんこの奥さんのキーホルダーは、かなり使い込まれていたが、赤だった。
ありゃ~…。
この奥さんにも、かつては大音響の元でガツガツ踊りまくっていた青春(えっ)があったなんて、誰が信じてくれようか。
奥さんは「あ、すみません」と、元気のなさそうな声で鍵を受け取り、マンションに入っていった。
この時すでに、ニューヨークニューヨークが閉店してから十数年経っていたはずだよ。
あの奥さん、一体、どんな気持ちであのキーホルダーを使ってたんだろうなあ…。
なんだかな。
みるからにマニアやおたくの人よりも、普通なふりをして地味に生きてる人のほうにこそ、突飛で濃い人が多いと感じるんだが、どうですかねえ。
私自身はどうかというと、オタクでもマニアでも普通の人でもなく、宙ぶらりんであると思う。
今じゃサントラも出てますな。
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